概要
スイム、バイク、ランを連続して行うトライアスロンは、その過酷さから鉄人レースとも呼ばれる。様々なレギュレーションの大会の中でも、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.2km以上の大会は「アイアンマンディスタンス」と呼ばれる。本投稿では、日本国内で最長の距離を持つ「佐渡トライアスロン」に参加した結果を報告する。
キーワード:トライアスロン、ストロングマン、佐渡トライアスロン
目次
1 背景
1.1 佐渡トライアスロンAタイプについて
佐渡トライアスロンは、新潟県の佐渡市で開催されるアイアンマンディスタンスのトライアスロン大会である。本投稿ではA部門について概要を説明する。
スイムは日本海を使用し4.0 [km]泳ぐ。2023年大会は、砂浜よりスタートし沖と浜を2往復した。バイクは佐渡島を一周する190 [km]コースで1500 [m]Upでありアイアンマンディスタンスとしては長く、登坂区間も多い(大きな坂が4箇所、小刻みな坂が多数)。ランは1周10km強のコースを4周回し42.2 [km]走る。難コースのバイクパートを上手にやり過ごしてランにつなげることが本レースを攻略する上で重要である。また、昨今の地球”沸騰化”による猛暑をいかに攻略するかも重要なポイントとなる。
佐渡トライアスロン公式HP : http://www.scsf.jp/triathlon/index.html
1.2 ロングディスタンスと実験者
実験者としては2019年9月の佐渡トライアスロン以来のロング出場となる。
2019年大会では、バイクパートでのペース配分ミスによりランで大幅に失速した。
また当時履いていたビンディングシューズ、ランニングシューズがキツく、その影響か完走後1か月近く足のむくみがとれなかった。
その対策として、シューズ新調、パワーメータ導入を実施。ライド中の踏み込み具合を客観的に評価できるとともに、パワーをベースとした効率的なトレーニングに一役かった。
2020年頃にバイクの実力が一時ピークを迎えるものの、コロナによる大会減少、モチベーションの低下から実力が下降。この夏、エベレスティングチャレンジをはじめとして一生懸命トレーニングに励んだものの、未だに2020年6月に出した近所の山でのヒルクライムの記録が更新できていない。
来る2023年、国内で最長距離、最高難易度とも言われるこの佐渡トライアスロンに
この夏新たに仲間になったロードバイク「TCR ADVANCED PRO 0 DISC」で再び挑む。
2 走行戦略
今回のレース全体を通しての目標は、「最後まで走り切る」ことに尽きる。
実験者が過去に出たロングのレース(五島、宮古島、佐渡)すべてでランパート途中で歩いてしまっている。
これは、精神力が云々というよりはペース配分の失敗によるものが大きいと考察する。
本大会では、最後まで走り切るために全体を通したペースメイクに特に注意した。
2.1 スイムパート
2019年時点と練習量は変わらないため、目標タイムは前回大会を参考に1時間30分とした。
当日は水面に波がほとんどない好条件であったが、水温29 [℃]と異例の高水温であった。
高水温によりクラゲが大量発生していたため、ウエットスーツの着用が運営より推奨された。
目標タイムに囚われて気合を入れすぎず、ロングにおいてスイムはアップと言い聞かせ泳ぐ方針とした。
目標タイム:1時間30分(2分15秒/100mペース)
2.2 バイクパート
2019年の大会では平均29.7 [km/h]のペースで190 [km]を走り切った。
ここでは、本大会前の一週間前に出場した乗鞍ヒルクライムの結果を参考にペースを設定する。
乗鞍ヒルクライム(2019年8月) 1時間7分
乗鞍ヒルクライム(2023年8月) 1時間8分
上記より、2019年時点とほぼ同程度のバイクの実力と判断した。
今回の”最後まで走り切る”作戦により、当時より抑えめに走行することを考慮し、平均ペース29 [km/h]を目標と定めた。
ただし、走行中はスピードよりパワーを重視し、大会出場直前に計測されたFTP 250 [W]の7割である175 [W]を目安に走行する。
また、今回実験的にDHバー取付け無しの純ロードバイクで競技した(大会参加者でもレアな存在)。新しいカーボンフレームのロードバイクに合うDHバーの手配が間に合わなかったことが発端であるが、取付けによる重量増加やそもそもDHバーを取付けて直近1か月ライドしていないことを考慮し、この選択に至った。
補給食は20km毎に1回(前半はエネ餅、後半はマグオン)摂取。
ボトルケージは3つ用意し、エイドステーション、ウォーターステーションで無くなり次第ストックする方針とした。多少苦しくても、補給食、水の補給は欠かさず行う方針とした。
目標:6時間33分(29 [km/h]ペース) なお、走行時パワーは175 [W]目安
2.3 ランパート
2019年の大会では、半分以上歩いてしまったので6時間35分もの時間を要した。
今回は最後まで走り切ることを目標として、ラン競技時点での残された力を計画的に出し切る。
エイドステーション以外ではピッチを刻み、6 分/kmのペースを目標として走行する。
たとえ6 分/kmのペースがキープできずとも、ピッチだけは細かく刻み最後まで走り切る方針とした。
目標:4時間13分(6分/kmペース)
3 走行結果
2項の走行戦略を意識し走行した結果と前回大会の結果を表1,表2に示す。
表1. 佐渡トライアスロン2023の走行結果
合計タイム | 順位 | Sタイム | S順位 | Bタイム | B順位 | Rタイム | R順位 |
12:31:20 | 104 | 1:27:01 | 517 | 6:22:05 | 88 | 4:36:19 | 166 |
表2.佐渡トライアスロン2019の走行結果
合計タイム | 順位 | Sタイム | S順位 | Bタイム | B順位 | Rタイム | R順位 |
14:49:46 | 487 | 1:37:37 | 397 | 6:25:08 | 76 | 6:43:33 | 735 |
総合タイムとして2時間17分の短縮ができた。
3.1 スイムパート
スイムラップ:1時間27分
目標:1時間30分(2分15秒/100mペース) 達成
波がほとんどなかったため、想定以上の速度で泳ぐことができた。
高水温で大量発生していたとされるクラゲは、数匹しか遭遇せず完了できた。
3.2 バイクパート
バイクラップ:6時間22分
目標:6時間33分(29 [km/h]) 達成
速度は気にせず、全体を通しての平均パワーが170W程度となるようサイクルコンピュータを注視して競技した。
標準化パワー(NP)は175Wと狙った値で走り切ることができた。
3.3 ランパート
ランラップ:4時間36分
目標:4時間13分(6分/km) 達成ならず
ちょうど14:00頃競技開始となり、非常に暑かった。
2 [km]に1回程度で配置されるエイドには必ず立ち寄り、水分補給、水浴びを必ず行った。
前半は6 分/kmを切るペース、後半は6 分/kmを超えるペースとなったもののピッチを刻み続け、大幅なペースダウンを抑えた。
また、当日装着したスマートウォッチによる分析結果を下記に示す。
上記分析により、エイドで足を止めた20数か所以外は走っていると判断できる。
したがって、本レースの最重要課題であった“最後まで走り切る”ことを達成したといえる。
4 考察
総合タイムを2時間以上縮め、総合順位を大幅に上げることができた。
これはレース全体のペースメイクが改善しランの結果がよくなったことによるものが大きいと考察する。
前回大会と比較するとスイム、バイクともにタイムの短縮に成功しているが、種目別の順位が上がっているわけではない。タイムは当日の環境(海面の波、風向きや風の強さ)により多少誤差が出るため、タイムだけで良し悪しは評価できない。
実験者のスイム、バイクの実力は前回大会と同程度、大会参加者のレベルが変わらないと仮定すると、本大会のAタイプ参加者はほぼ同数(2019年:1008名、2023年:965名)のため、種目別順位で評価するのが妥当といえる。
種目別順位に注目して評価した場合、本大会はスイムとバイクは前回大会より力をセーブしてやり過ごし、力を残してランに繋げたともいえる。
その結果、ランで大幅な失速が無く走り切ることができ、総合順位のアップにつながったと考察する。
そのほか、レース結果を左右する要因についても下記に考察する。
4.1 ロードバイク+DHバーの是非
実験者は今回ロードバイクにDHバーを装着せずに佐渡トライアスロンのバイク競技を行った。
トライアスロン競技者でタイムトライアルバイク(以下、TTバイク)所有者以外は、ロードバイクにDHバーをつけるのが一般的である。
これについての是非は現段階では判断できない。
一般的に言われるDHバー装着のメリットは下記の通りである。
- 空気抵抗の減少
- DHポジションという新たな姿勢により身体の各部疲労を分散可
一方、DHバー装着のデメリットは下記の通り
- 車体重量の増加
- コーナリングが難しい
初めから単独走行を目的に作られたTTバイクがトライアスロンのバイク競技において最適解であることについては異論はない。
ただしロードバイクについては、それ単体で空力、走行感、重量が最適となるように作りこまれたものと考える。各メーカーのグレードが上がれば上がるほど、その作りこみは緻密なものになる。
マスターピースともいえるハイグレードロードバイクにDHバーをつけることで、本来の狙った性能が発揮されない可能性はある。
DHポジションの空気抵抗低減効果は確かに魅力的である。しかし、下ハンドルポジション、スフィンクススタイルでも一定の空気抵抗低減効果は得られる。ある一定以上の登坂が多数あるコースではロングディスタンスにおいても、軽量化の面から純ロードバイクのほうが有利とも考えられる。
本記事では「ハイグレードなロードバイクにDHバーをつけることは、ロードバイクの特長を消し角を矯める行為になるのではないだろうか?」という問題提起に留めることとする。
4.2 熱中症対策
地球沸騰化真っ只中の本大会では、昼間の気温が30 [℃]を越えた。
水を浴びて体温上昇を抑えること、こまめな水分補給を意識して走行することで、熱中症にならず完走することができた。特にランでは、エイドステーションが多くあったのでとても助かった。
今後、トライアスロンを続けていくうえで熱中症対策は避けて通れない。
深部体温を測定するデバイスが市場に出始めているので、これらを用いて深部体温をモニタリングしながら競技するといったアクションも必要と考えられる。
4.3 補給食計画
バイク中の補給は、用意したエネ餅を5個を摂取。マグオンを4個を摂取(水に溶かしてボトルに詰めた2つ+ジェルのままのもの2つ)
ラン中のエネルギーとしては中盤にバナナを一本摂取。エイドでアクエリアス、コーラを飲むことで食いつないだ。
2019年大会はレース前後で7 [kg]の体重減少があったが、今回は意識して水分補給、エネルギー補給を行ったこともあり、3 [kg]の体重減少に留めることができた。
補給について前回大会より改善し、順位の向上につながったと考えられる。
前回実験者を悩ませた”むくみ”は今回は一切発生しなかった。
5 大会期間中の動き
参考までに実験者の大会期間中のスケジュールを記載する。
前提実験者は、茨城県より新潟港まで車移動、フェリーにて佐渡まで移動し(車は新潟港に駐車)、両津港周辺の宿に宿泊、佐渡島内の移動はアストロマンバスを利用した。
9/2(土)
- 3:30 車移動開始(茨城→新潟港)
- 7:30 新潟港到着
- 9:25 カーフェリー出航(新潟→両津港)
- 11:30 昼ご飯(フェリー内にて岩ノリうどん)
- 11:55 カーフェリー到着
- 12:15 アストロマンバス乗車(両津港→アミューズメント佐渡)※自転車輸送
- 12:50 アストロマンバス下車
- 16:00まで 選手受付、バイクセッティング、会場確認
- 16:00 開会式出席
- 17:15 アストロマンバス乗車(アミューズメント佐渡→両津港周辺宿)
- 18:00 宿にチェックイン
- 18:30 夕飯、風呂
- 20:00 就寝(相部屋のいびきもあってよく眠れず…)
9/3(日)
- 2:45 起床、同時におにぎり弁当を食す
- 3:30まで 歯磨き、荷物最終確認
- 3:40 アストロマンバス乗車(宿→佐和田)
- 4:30 佐和田到着、レース準備開始
- 4:40 排泄
- 6:00 レーススタート
- 18:30 ゴール
- 20:30 アストロマンバス乗車(佐和田→宿)※自転車輸送
- 21:30 晩ご飯
- 23:00 バイクパッキング開始
- 24:00 就寝
9/4(月)
- 5:30 起床
- 6:00 朝風呂
- 7:00 朝ごはん
- 7:30 徒歩移動(宿→両津港)※輪行袋抱えて移動
- 9:15 カーフェリー出航(両津港→新潟港)
- 11:30 昼ご飯(岩ノリラーメン+カレー)
- 11:45 カーフェリー到着
- 12:00 車移動(新潟港→茨城)
- 16:30 自宅到着
- 以降片付け、はま寿司
- 21:04 出張先(埼玉)へ移動
6 感想・まとめ
佐渡トライアスロンについてレビューを行った。
自身で立てた目標が達成できて自信がついた。
次回は年代別入賞したい。