概要
近年のマラソンブームによって、市民ランナーの数は増加している。ランナーは各々の目標を設定し練習を行っているが、その中でも「サブスリー」は多くの競技志向の高い市民ランナーの目標である。しかし、その目標の達成には戦略的、継続的なトレーニングが必要であり、その難しさから達成率はランナー全体の3~5%と言われている。
本実験では、2017年10月にサブスリーを達成した実験者の体験をもとに、サブスリー達成のポイントについて検討する。
キーワード:マラソン、サブスリー、心拍、悪魔のささやき
1 サブスリーのポイント
実験者は、トレーニングの甲斐あってついにサブスリーを達成した。
そこで、自身の近年のレース傾向を分析し、サブスリー達成のために必要な要素を以下の5つと定めた。
- ①筋力の強化
- ②心肺機能の強化
- ③ペースメイク
- ④道具
- ⑤コンディション
次節以降で、その詳細について述べる。
2 筋力の強化
フルマラソンは、数万回を超える着地による脚へのダメージを耐え抜かなければならない。
耐え抜くための筋力が備わっていない場合、疲労によって走れなくなり完走すらままならない。
筋力を得るには筋トレが重要なのはいうまでもないが、実験者は走る運動とは別に脚の筋トレはしたことがない。
走るための筋肉は走ることで身につくので、サブスリーを狙うだけあれば筋トレは特に要ないといえる。
3 心肺機能の強化
42.195km走り切れる脚の次に重要になってくるのは心肺機能の強化である。
サブスリー達成には100m走を25秒程度で走るスピードが必要であるが、多くの人がこれをクリアできる。しかし、このペースの100m走を422回連続でやるとなると、なかなかしんどい。
走行するためには酸素が必要であり、ペースを上げるとその分だけ身体が酸素を必要とし、心拍数が上がる。このとき、酸素が十分に体に行きわたって運動している状態が有酸素状態、強すぎる負荷に酸素の供給が追い付いていない状態を無酸素状態という。
心肺機能が強い人間は、比較的ハイペースでも体全体に酸素を供給することができ、有酸素状態を維持できる。100m走を25秒程度で走って息一つ切れないようであれば、サブスリー達成においてスピードと心肺機能としては及第点である。
1kmあたり4分15秒ペースを有酸素運動領域で行うことができる心肺機能があれば、理論上サブスリーは到達可能である。
4 ペースメイク
マラソン中のペースは前半貯金型、イーブンペース型、後半追い上げ型かの三つに分類される。
以下にそれぞれの特徴について記載する。
4.1 前半貯金型
レース前半は目標タイムから計算される平均ペースを上回るペースで走行し、終盤まで可能な限り維持する。
終盤の筋力の疲労と乳酸の溜まりによるペースの落ちを前半の頑張りで補う型である。
この型の特徴として以下が挙げられる。
- 間違いなく完全燃焼することができる。
- 終盤はランナーたちに追い越され精神的にも肉体的にもきつい。
- 終盤にかけてフォームが乱れやすい。
4.2 イーブンペース型
レース中は目標タイムから計算される平均ペースで走行し、それに追従するように入力を調整する型である。
この型の特徴として以下が挙げられる。
- 平均ペースを目標にするだけなので、レース中にペースメイクについて悩む必要がない。
- 起伏の激しいコースやレース序盤の混雑などの外的要因に弱く、現実的ではない。
4.3 後半追い上げ型
レース前半は目標タイムから計算される平均ペースを下回るペースで走行し、中盤または終盤にかけてギアを上げゴールを目指す型である。
この型の特徴として以下が挙げられる。
- 終盤にかけてへばってきたランナー達を追い抜いていくので、楽しい。
- スパートをかける地点や前半の設定ペースを誤ると不完全燃焼で終わることがある。
- レース開始後の人込みで苛立つことがない。
4.4 実験者のマラソン結果と考察
ペースメイクについては、意見が分かれるところであるが、実験者は後半追い上げ型をお勧めする。
実験者は、マラソンを始めたばかりのころは前半貯金型の走りがほとんどであった。
なぜなら、前半に貯金を作っておいたほうが気持ちがなんとなく楽であり、早くゴールできる気がするためである。
しかし、ランナーにとって留意すべきは、
前半で使い切った(つぶれた)脚は、後半で再起することはない
という点である。
前半に高出力を要求する前半貯金型は、脚をつぶすリスクしかない。
実際に前半型で走った大会を見ると、ペースが落ち始めるとそれを止めることができずに最後までペースは落ち続ける。
精神力と闘争心が異常に強い方なら、気合で持ちこたえることができるかもしれないが普通の人間は無理である。
つぶれた脚はレース中に再起しないため悪い方向にしか行かないためである。
そのため、一般人は最後まで脚をつぶさないことを念頭に走る必要がある。
また、レース前半は身体が温まっていないことが多く身体を痛めやすいため、
前半をウオーミングアップに使える後半追い上げ型をお勧めする。
2014年から2015年のレース結果(ペースが後半にかけて大幅に下がっていることがわかる)
2017年1月のレース結果(ペースを終盤まで維持していることがわかる)
サブスリー時のレース結果(心拍数を終盤で上げ、ペースを上げようとしていることがわかる)
5 道具
2節で述べた筋力があり、3節で述べた1km4分15秒ペースを出し続けられるような心肺機能をもっていても、レース中にオーバーペースで序盤から飛ばしていては、乳酸がたまり次第に筋肉は動かなくなる。
多くのトレーニングを積んだランナーは20km程度を超えた付近で、調子が良くなってペースアップしたくなる(通称、悪魔のささやき)。
こういった心理状態で心拍数とそのときのペースが確認できるデバイスは有用である。
その対策として、有効なのが「GPSと心拍計の搭載された腕時計」である。
これによって、自身のリアルタイムのペースと心拍数から不用意に頑張りすぎていないかを容易にチェック可能となる。
6 コンディション
全国各地で、マラソンが開催されているがコースの難易度はまちまちである。小高い丘をいくつも超えていくもの、海辺の激しい向かい風が吹くものなどのきついコースもあれば、終始フラットな道を走るものもある。
記録を狙いに行くなら、獲得高度が少ないフラットなコースを選ぶべきなのは言うまでもない。
また、レース前日の過ごし方は、非常に重要である。
参考までに、実験者が二日酔いで走ったレース結果を下記に記載する。
気分の悪さで序盤から歩いてしまっている。
酒のせいで練習の成果が出せないのは、この上なく悔しい。
まとめ
筋力、心肺機能を鍛えて、良い道具で走行中のペースと心拍数を監視し、前日のコンディションをしっかり整え、レースのペースメイクを後半追い上げ型にすれば、サブスリーは達成可能である。
実際にサブスリーを出した大会についてのデータ分析及びやるべきトレーニングについては別途検討し報告する。